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経営と投資家を結ぶIR ~心構えと実践~ 守屋様ご講演(投資家側から見るIRの心技体)

本記事は、3/29に出版された“「株主との対話」ガイドブック: ターゲティングからESG、海外投資家対応まで”を執筆した元ヤフー株式会社ステークホルダーリレーションズ本部長の浜辺真紀子氏と、機関投資家として上場企業の長期投資をおこなってきた元RFI CEOの守屋秀裕氏をゲストに迎え、「IR担当に期待されているマインドセットとは何か」「経営層や社員たちを巻き込むIRとはどのようなことか」について、議論したセミナーの守屋様のご公演パートになります。


■登壇者プロフィール
株式会社Cocores CEO

守屋 秀裕 氏

モルガン・スタンレー証券会社で投資銀行業務に約5年従事した後、スパークス・アセット・マネジメントにてアナリスト及びファンドマネジャーとして日本株運用に約9年携わる。2015年に「経営を理解し、企業を応援する長期投資」を実践するシンガポールの投資会社RFinancialInvestmentを起業。2023年3月に「情報の循環を整え、豊かな経済エコシステムに貢献する」をミッションとする株式会社Cocoresを起業。「誰もが自他から尊重される社会」がライフミッション。長野県岡谷市出身。


目次[非表示]

  1. 1.守屋様ご紹介
  2. 2.本日お伝えしたいこと
  3. 3.心: 経営におけるIRの役割
  4. 4.技: より良いIRのためのハード/ソフトスキル
  5. 5.体: 投資家を惹きつけるIRの体制・姿勢
  6. 6.最後に

一瀬
ここからは、今度は資本市場の投資家の視点からIRの心技体をぜひ解説いただきたいと思っております。では、ここからはCocoresの守屋様からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。それでは守屋さんよろしくお願い致します。

守屋様
本日はどうもありがとうございます。私からは浜辺さんのお話に続きまして、ご紹介いただいたとおり、投資家側から見るIRの心技体ということでお話しさせていただきます。


守屋様ご紹介


まず、最初に自己紹介をさせていただきたいと思っております。
私のキャリアとしましては、15年以上機関投資家として活動をしておりまして、直近でいいますと7年間、シンガポールでフィナンシャルインベストメントという投資会社を経営しておりました。
そこでは経営を理解して企業を応援するような長期投資というのを実践しておりました。そこでの経験も踏まえて、改めて情報の循環を整え豊かな経済エコシステムに貢献したい、企業様のステークホルダーコミュニケーションのお手伝いをしたいということで、今のCocoresという会社を起業いたしました。
そして、私の投資家としての経験、経歴はちょっと特殊で、様々な投資の戦略というのを実際に当事者として実行してたことがあるというのが特徴かなと思っております。


本日お伝えしたいこと


本日私からお伝えしたいことは、浜辺さんにいただいたフレームワーク、心技体に沿ってお話させていただきます。
まず最初に「心」、経営におけるIRの役割はどんなものかという点をお話したいと思っております。
次は「技」。技においては、より良いIRをやるためのハードスキル、ソフトスキルはどんなものなのかというお話をします。
3点目、「体」においては、投資家を引き付けるためのIRの体制や、姿勢っていうのはどういうものなんだ。こんなところをお話したいと思いますので、よろしくお願いします。


心: 経営におけるIRの役割


まず心です。では、IRをどう捉えるのか、位置付けるのかというところですが、まずその前提とて、私はIRコミュニケーションってすごく難しいものだと思っています。難しい理由は色々ありますが、ここにある3つを見てください。


投資家との対話は異文化コミュニケーション


1点目、投資家と企業のコミュニケーションというのは、基本的に異文化コミュニケーションだなと私は思ってます。「分かり合えた」という瞬間に至るのはすごく難しい。その一つがコミュニケーションとしての側面があるからだと思っています。


正解が存在しない


2点目ですが、IRのやり方に一般的な正解は存在しないと思っております。
企業ごとに業界であるとか、ご状況であるとか、様々なことによって「やるべきこと」や「やった方がいいこと」がかなり異なる。

ですので、他の会社さんがやったことをそのままやったとしても、なかなかうまくいかないという状況があるのかなと思います。うまく行くためにかなり手間が掛かるよという話ですね。


投下リソースに対するリターンが不明確


3点目はよく言われることですが、IRって成果が測れない、投下するリソースならよくわかりますが、じゃあそれでどんな成果が得られたのかが分からないという意味で、コスパが悪いように感じてしまう。とはいえ、どんどんプレッシャーがかかり、やらなきゃいけないこととして捉えられやすいので、なかなかIRコミュニケーションは難しいなと思います。


「株主の質は経営の質」


そういう前提の中でどのようにIRを位置づけたら、より良い活動ができるのかということを考えてみたいなと思います。
このスライドの一番上の言葉。「株主の質は経営の質」。これは先程の浜辺さんの書籍からちょっと取らせていただいた言葉ですが、これすごくいい言葉だなと思いました。これをどう解釈すればいいんだろうって思ってます。

ぱっと思いつくのは「いい会社はそりゃいい株主につくよね」とも捉えられると思うんですが、もう一つの側面として、やはり株主との対話というものが経営の質を高める基点になるという要素があるのかなと思います。
ここを考えると、やはり株主の質が高ければ、それを起点に磨き込むことによって到達する経営の質というのも高くなり得るという側面があるのではないかと思っております。

ただ、これをやるには、環境の整備がすごく大事であって、一朝一夕にフィードバックのループが効くってことではないと思います。



私自身、「IRは環境づくり」と位置づけるのが一つの考え方ではないかと思っています。

その環境づくりというのは、株主から適切に学ぶための環境をつくるということです。
じゃあそれを具体的にどのようにやればよいかというと、私が考えているのがこの3つの要素になります。
「数」と「多様性」と「理解度」です。



いろんな人から学んでいくという前提でいくと、やはり一定数の方とコミュニケーションを取るというのはすごく大事なことだと理解いただけると思いますが、コミュニケーションを取っている相手が多様性に欠け、偏った状況になっているとそれは学びが偏ってしまうので危険です。
やはり多様性は大事だと思います。

あと3点目の理解度ですが、自分のことをよく理解してくれている人のフィードバックほど学びとして活用しやすいということは事実だと思いますので、まずは数を担保し、多様性を担保し、その方たちの理解度を高めることで、株主とのコミュニケーションから適切に学んでいく環境をつくるということができるのではないかと思います。

これがIRの一つの位置づけなのではないかと思っています。一番下に書いてありますが、この条件は企業が株式市場において適正に評価されるための条件とかなり等しいのではないかと私は思います。「学習するための最適な環境」というものは「適切に評価されるための環境」でもあるんじゃないかとおもいます。


技: より良いIRのためのハード/ソフトスキル


次に技に移っていきます。ここでは2点お話させていただきます。


IRの知識・技能(ハード面)


まずはIRを行う上で必要な知識、技能のハード面のスキルのお話をさせていただきます。
すこしわかりづらい図ですが、お伝えしたいことは、やはり投資家と企業経営者の方は、世界を見るレンズが違うという前提を持つことが大事だということです



経営者は、基本的にどのように価値を創出するか、お客様に価値を届け、価値を生む仕組みをつくっていくかという観点で試行錯誤され、その経営学のような一般的な理論を取り込み実践と理論を行き来しながら価値創出するためのスキルを身につけていく、仕組みを作っていかれているのだと思います。

同様に投資家側も同じで、動きとしては同じことをしますが、彼らはいかに企業をきちんと評価し、成果を上げるパフォーマンスをしてくれる企業に投資をするか、そのための実践と理論というのを取り込んでいると思っています。
なので、この「価値創出」のためのレンズと「価値評価」のためのレンズはかなり異なりますので、IRのご担当者様やCFOはこの2つのレンズから見た世界を翻訳するような立ち位置だと思います。

先程逆コウモリのお話をされましたが、私もそれと同じように、この価値創出のレンズと価値評価のレンズをつないでいくのがIR担当者、CFOに求められるハード面でのスキルではないかと思います。


IRの知識・技能(ソフト面)


次に、ソフト面のお話をさせていただきます。

一言で言うと、先ほど申し上げたとおり、投資家といってもかなり多様性があるので、その多様性や個性に合わせて、コミュニケーション戦略や技術を磨いて実践する必要があるということをお伝えしたいと思っております。

投資家の個性って分かるようで分からないというお話をよくいただくんですが、私としては3つの要素に分けて考えることで、こう人なのではないかと考え予測し、コミュニケーションを取っています。



この3つは、
①投資家が実際に採用している投資戦略。
②どんな組織どんなカルチャー、どんな仕組みの組織に所属しているか。
③その人自身が持っている価値観やモチベーションの源泉のような個人の特性。


この3つの観点で投資家の個性を捉えていくと、ざっくりとした「投資家」というイメージでコミュニケーションを取っていくよりも、かなり解像度高く、相手に合わせたコミュニケーションを取ることができるようになるのではないかと思います。


体: 投資家を惹きつけるIRの体制・姿勢


最後に「体」についてお話をさせていただきます。

まず最初に、経営におけるIRの位置づけが、投資家にとっては重要な情報源になっていたり、その企業を評価する上で重要な要素になっているというお話です。
ここでバロメーターと言ってますが、例えばの経営者の資質として、視野が広くて視座が高い人って一般的にいい経営者になりやすい部分があると思いますが、これもIRへの向き合い方で一定見えてくる部分があると思います。


2点目、いまサステナビリティ経営を推進しようと言ってない会社様の方が少ないと思いますが、一方でサステナビリティ経営の根幹って何なんだろうと考えた時に、私はさまざまなステークホルダーとコミュニケーションを取り、それぞれの期待に応えていくという、そんな経営のあり方、コミュニケーションのあり方というのが、実はサステナビリティの土台なのではないかと思っています。


サステナビリティ経営って言っているのにIRに向き合わないっていうのはどういうことなんだろう、とかですね。

そういった活用もできる情報になってくると、IRに積極的な方、逆に全くやられてない方は、おそらく何らか個人としてのモチベーションに関係してるんだろうと思います。
その経営者の個性を知るという意味でも、IRがどう位置づけられているのかは、実はすごく貴重な情報源だということをお伝えしたいと思いました。


そのため、IR担当をされる方の姿勢とか行動でこうあってほしいと私が思っていることをぜひお伝えしたいと思って作ったのがこのスライドになります。

IRでのどういう対応・姿勢が投資家の心を動かすかという観点でいくと、青字で書いたところが答えになりますが、投資家が一人で考えて調べても至れないような適切な理解であるとか、その企業に対する納得というものを形作る案内をしていただいた時に、投資家としても心が動くのではないかと私は思っています。

具体的にどういうことかというのが下のポイントです。
​​​​​​​例えば一番上の、人としてコミュニケーションを取るというところでいくと、投資家も人で、ちゃんと感情があって、合理だけで動いてない、人間なんだよということ。

すごく具体的な事例でいくと、ミーティングの最初に挨拶の後すぐに「すいません、御社の運用資産は幾らでどのぐらい投資するんですか」とか、条件から聞かれたりすることがたまにありますが、あれをやられると人としてではなく、金を引き出すマシンみたいに見られてるんじゃないかとか思うことがあります。そうするとコミュニケーションは取りづらくなる。とかですね。

人としてのコミュニケーションを取ることってすごく重要だと私は思っています。
その要素が次の率直なコミュニケーションを取るであるとか、自分のブラインドスポットを補うとか、それをやる上でも相手をどういう人かと興味関心を持っていただくことがすごく重要だと思うので、そんなお話をさせていただきました。


最後に


最後に私からのまとめになりますが、今までの脈絡と全然繋がらないかもしれませんが、私からお伝えしたいのは、IRって大変な立ち位置の役職だということです。
であるからこそ、ご自身の中にあるエネルギー源をすごく大切にしていただきたいと思っています。

難しい中でもやり続け、学んで作り込むことで、それが経営に活きてくるというのがすごく奥深いIRの意義だなと私は思っています。

​​​​​​​
でも、大変な中でやり続けるって簡単ではないからこそ、ご自身の中にあるエネルギーを大事にしてほしい、別の言い方でいうと、ご自身の個性を活かしてIRをやっていただけるとすごく嬉しいなと思っております。

私からは以上になります。ご清聴ありがとうございました。

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