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経営と投資家を結ぶIR ~心構えと実践~ 浜辺様ご講演(IR部門の心技体)

本記事は、3/29に出版された“「株主との対話」ガイドブック: ターゲティングからESG、海外投資家対応まで”を執筆した元ヤフー株式会社ステークホルダーリレーションズ本部長の浜辺真紀子氏と、機関投資家として上場企業の長期投資をおこなってきた元RFI CEOの守屋秀裕氏をゲストに迎え、「IR担当に期待されているマインドセットとは何か」「経営層や社員たちを巻き込むIRとはどのようなことか」について、議論したセミナーの浜辺様のご公演パートになります。


■登壇者プロフィール
浜辺真紀子事務所 代表 / ソウルドアウト株式会社 独立社外取締役/
株式会社大塚商会 独立社外取締役
浜辺 真紀子 氏

チリ中央銀行、JPモルガン等を経て、トムソン・ファイナンシャルIRに入社、2000年3月にはヤフー(株)(現Zホールディングス(株))に入社し、初めてのIR専任者となる。
2014年4月~2017年3月まで、SR(ステークホルダーリレーションズ)本部長として経営陣と市場との対話を統括するのみならず、会社機構再編などに取り組む。2018年4月より社長室長兼コーポレートエバンジェリスト。
その後、ディップ株式会社執行役員を経て、浜辺真紀子(IR/ESGコンサルティング)事務所代表(現任)、ソウルドアウト株式会社独立社外取締役、株式会社大塚商会独立社外取締役(現任)。
著書は、「ヤフージャパン市場との対話:20年間で時価総額50億円を3兆円に成長させたヤフーの戦略(徳間書店2018年)」、「『株主との対話』ガイドブック:ターゲティングからESG、海外投資家対応まで(中央経済社2023年)」、「この1冊ですべてわかる IRの基本(日本実業出版社 2023/12/15発売 ) 」


目次[非表示]

  1. 1.浜辺様ご紹介
  2. 2.IR担当者 心技体の「心」
  3. 3.IR担当者 心技体の「技」
  4. 4.IR担当者 心技体の「体」


一瀬
早速、コンテンツの本番に入ってまいります。最初は、浜辺様より基調講演、「IR担当者・IR部門の”心技体を磨く”」というテーマでお話をいただきたいと思います。浜辺様ご講演の程よろしくお願いいたします。

浜辺様
それでは私から”心技体を磨く”についてお話させていただきます。



浜辺様ご紹介

出版書籍について


この度、今年の3月末に2冊目の本を出版いたしました。「株主との対話ガイドブック」です。
ちょうど3月31日に東証からこのような要請がなされました。資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応、株主との対話の推進と開示についてです。

日経新聞ではPBR1倍割れの会社向けというような論調となってましたが、それは間違いです。資本コストや株価を意識した経営は、すべてのプライム、スタンダード市場上場企業向け、そして株主との対話の推進と開示は全てのプライム市場上場企業向けです。私の本は3月末に発売されたのですが、ここで求められている事項について具体的な対応施策を記載していますので、とても良いタイミングだったなと考えております。


本当は、”株式市場との対話”にしたかったんです。なぜならば、対話の相手は既存株主だけでなく、潜在株主、つまりすべての投資家だからです。ただ編集者から株式市場が何を示すのか明示した方がいいと言われて考えたんですけれども、ちょっと説明が長くなるので、思い切って「株主」としました。
本日はIR担当者・担当部門の”心技体”、これについてお話したいと思います。



IR担当者 心技体の「心」

IRオフィサーはCEO、CFOの代弁者です。まずは「心」、ここで言いたいことは3つです。
逆コウモリの意思と姿勢を持ち、誠実さ「INTEGRITY」を大切にしよう。
2つ目、IRとPRの違いを理解しよう。
3つ目、地味に見える業務にも魂を込めよう。

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逆コウモリの意思と姿勢を持ち、誠実さ「INTEGRITY」を大切にしよう。



イソップ物語のコウモリの話はご存知でしょうか。昔、鳥と獣の戦争があった時に、コウモリは鳥の方の戦況がいいと「私は飛べる方あなた達の仲間だ」と言い、獣の方が戦況が良くなるとあなたたちの味方だよ仲間だよという風に勝者におもねります。結局こいつは調子の良い奴だということで、コウモリは仲間はずれにされ、洞窟の中で昼間は過ごすようになるというお話です。

そしてIR担当者は逆なんだと思っています。つまり、会社と株式市場の間で板挟みになることが多いですが、望まれてる姿勢は投資家やアナリストと話す時には決して迎合せず、会社や経営陣の立場で対峙する。社内で話す時には、投資家アナリストの意見を代弁する立場、株式市場側の立場を持ちながら誠実に対話する。これこそがIR担当者に求められているとても重要な姿勢だと考えております。皆様にはぜひインベストメントチェインの重要な要であるという自覚を持って頑張っていただきたいと思っています。



IRとPRの違いを理解しよう。


次に重要なのがIRとPRの違いを理解するということです。PRは一般的にはポジティブポイントをアピールすることが要となります。

ただIRは違います。IRにおいては課題とソリューションが重要です。課題のない企業はありません。投資家が見ているのは、経営者が特定した経営課題が何なのか、それをどのように解決しようとしているか。そして課題は伸び代であるということです。アピールしたいポイントだけを開示して課題を語らないIRは意味がないと私は考えます。



地味に見える業務にも魂を込めよう。


3つ目の心構えです。地味に見える業務も心を込めて行うこと。何事についても今までの延長線でやっておけばいいというのは間違いです。取引所の再編と環境変化が急でありますし、指針やガイドラインは常に動いています。ただ、それに対応するだけでは足りません。

最適な状況であるためには、常にまっさらな目で業務を見つめていただく必要があると思います。どうすれば投資家にとって便利か、どうすれば、投資家の皆様の要望に応えられるのか、そういうことを意識しながらPDCAを回して業務に取り組む。これが必要だと思っています。



IR担当者 心技体の「技」


「技」とは、知識を深めて資料作成能力や説明能力、そして俯瞰力を高めましょう。ということです。投資家との対話を経営に生かすためには、まず投資家の正しい分類とターゲッティングが必要です。

皆さんの会社は、どのような投資家に株式を保有してもらいたいのでしょうか。投資家の時間軸を横軸とし、縦軸を投資家属性で分類してみました。

まずA。長期視点の機関投資家、結論から言うと、このカテゴリーが対話相手として最もふさわしい投資家です。
このカテゴリーの投資家は中長期的に成長するポテンシャルも持つ企業を見定めて投資しているため、視点の長さが経営者に似ています。投資家としての専門性に富み、また投資資金も大きいため、売買の際の株価へのインパクトも大きくなります。

既にこのカテゴリーの投資家が皆様の企業の株式を保有しているのであれば、対話をさらに深めていただくと良いと思います。既存の中長期視点の機関投資家との対話を深めて、そこからのフィードバックを経営に活かしていくことをすれば、他の中長期視点の投資家もさらに注目して株主になってくれるということにつながります。

また、既存投資家の中にこのAにあたる投資家がいないのであれば、新たにターゲットして開拓する必要があります。既存の株主とターゲット投資家の中から、中長期視点の機関投資家を抽出して対話相手を定める。これが建設的な対話の第1歩となります。

そして、B。短期視点の機関投資家です。自身の保有期間内、短期の保有期間内に投資効果を最大化して利益を得ることを目的とする機関投資家です。この中には、空売りを併用するヘッジファンドなども含まれていて、中長期的な企業価値の最大化を目指す経営者とは、視点が異なります。ただし、このカテゴリーには資金規模の大きな投資家もいます。そして頻繁に売買するため、売買時の株価へのインパクトが大きく、また流動性確保には欠かせないということにもなります。

そして、C、中長期視点、中長期視点の個人投資家です。いわゆるファン株主です。事業成長への確信や、事業・サービス内容への賛同、そして配当とか株主優待への期待、これらが保有の主な理由として挙げられます。重視すべき層ではあるものの、経営執行に活用すべき対話の相手として取り上げられることは少ないと思います。

そして、D、短期視点の個人投資家、短期的な投資効果を狙う個人投資家でデイトレーダーを含みます。短期視点ですので、資金規模や株価へのインパクト、一般的に小さくて対話相手として取り上げられることは少ないと思います。

個人投資家は機関投資家と反対の動きをします。例えば、機関投資家が売却して株価が下がっている時に、逆に買い増すこともあって、株価変動率が高い時の安定化に役立つと言われています。どのカテゴリーの株主もおろそかにしてはなりませんが、十把一絡げに考えずに分類して、自社に合った戦略を立てることが重要です。



知識

IR担当者には非常に広くて深い技が求められています。経営者の代わりとして、社外の賢い投資家と話をするので当たり前ではあります。皆様が既に身につけていらっしゃる技も多いと思いますが、これで十分ということはありません。引き続き研鑽していく必要があります。

知識の磨き方として、何となく知っていることを確たる知識経験にする一つの方法は「人に説明すること」だと思います。新卒社員とか新たにIRに異動してきた人に対して、とても有効です。
そして、財務やバリュエーションの知識はいろいろな本がありますので、自身のレベルに合った本を買って読んでみたり、あるいは自社のセルサイドのアナリストレポートがあれば、そちらにあるバリュエーション部分を読み解いて社内に説明したりすることが役立つと思います。

資料作成・説明能力


資料作成や説明能力、これについては自分が話したいこととか、会社がアピールしたいことだけでなく、相手が聞きたいこと、相手が興味を持っていることを話すように意識していただければと思います。
その際に気をつけていただきたいのがこの5つです。

・資本コスト
・資本収益性が重視されているということ
・IRとPRの違いを理解する、差別化や比較優位性を求められているのでその説明をする
・事業モデルの可視化
・中期経営計画の意味をきちんと理解する


この5つ目の中計、これは過去の積み上げで策定すべきではありません。長期戦略からのバックキャスト・逆算を考える必要があります。
発行体が中期経営計画の指標として挙げたものと、投資家側が経営目標として重視すべき指標として挙げたものを、それぞれの項目ごとにギャップ化して並べてみました。ギャップが一番大きいのが資本コストです。そして、投資家が経営目標として重視すべき指標として挙げた指標はROEで、85%以上の投資家が挙げているにもかかわらず、43%の企業が計画に織り込んでいないことがわかります




投資家に伝える情報の質と量を最大化するためのテクニックの一例をご紹介します。大枠で捉えてもらえる資料で初めての投資家向けプレゼン資料を事前に作成した上で事前送付したり説明したりすることがオススメできると思います。
なお、アプローチの一例としてはここにあるように、まずは大枠から、市場とか競合状況、自社の強み弱み、そして自社戦略という風に、大枠から細かいミクロ視点に掘り下げて説明すると分かりやすいと思います。その他にも多くの技については本に記載しましたのでご参照ください。




俯瞰力


俯瞰力は経営陣の代弁者として、日頃から株式市場関係者と話す時に求められる力です。普段資料作成を行う時には虫の目で皆さん行っていると思いますけれども、一方でCEOを支えるとともに、CEOに代わって株主に事業戦略を語るのがIR担当者の皆さんです。
社外の株式市場と触れ合うことで、鳥の目、俯瞰力を養う機会がたくさんありますが、俯瞰力の養成にはそれだけでなく、努力も必要だと思います。私自身、まだまだ俯瞰力が不足しているため、それを養うためにいろいろ努力をしています。





IR担当者 心技体の「体」


ここでは体制、つまり経営陣であったり、他部署であったり、株式市場との対話に重要な役割を果たす方を含めた体制についてお話したいと思います。


IRの皆様のお悩みを聞くことがありますが、この3つが多いと感じます。

一つ目、経営トップがIRを自身のお仕事と捉えていないこと。
二つ目、経営陣がIRとPRの違いを理解せずにポジティブな点だけをアピールしようとする。
三つ目、部門をまたがる取り組みが必要なのに、他部門の協力が得られないと

こうした皆様のお悩みを解決できるのが私の本だと思っています。僭越ですけれども、これは自信を持ってお勧めします。なぜならば、こういったお悩みを解決するためにこの本を書いたからです。私の本を経営者が読むことによって、このような効果が得られると思っています。

経営陣がIR活動でリーダーシップを発揮する。

他部門との調整が必要なIRの皆さんの仕事がやりやすくなる。

IR担当部門・担当者への正当かつ高い評価、これによってIR担当者が活躍できる土台が形成される。

上場企業経営者と投資家間の真に双方向的な対話の促進がなされることで、株式市場における日本企業の評価が拡大する。


そのためには経営者の方に読んでいただければなりません。

そこで、皆様のご協力が必要です。皆様、ご自身が読んでいただいて納得した上で、自社の経営陣、特にCEOとCFOに読ませてください。同時に経営企画とか経理など協力を仰ぐ部門にも読んでもらってください。IRという業務・役割への経営陣の理解と評価が高まることにより、皆様、ご自身の活動の土壌が形成されると思います。

IR部門の皆様だけでなく、投資家や社外役員の皆様にも経営トップに勧めてもらうように働きかけようと思っています。いろんな立場の方から外圧を作ることで、日本の経営、ひいては株式市場の質的な向上にお役に立てればと考えております。

皆様のご協力を賜れれば、幸いです。



関連部署へは社内IR講座が有効だと思います。
社内IR講座の主な目的は、ここにあるとおりで、社員の金融リテラシーの向上、自社に対する株式市場からの期待の理解、企業価値向上に貢献するモチベーションの増大やIR部門へのサポートの強化、株式市場からのフィードバックの活用機運がアップ、そしてIR部門に興味を持つ社員の増加、IR人材発掘の土壌の形成ということです。

自身の業務との関連性を理解してもらって、上場企業として株式市場と対話しながら成長を目指すという取り組みを全社一丸となり推進するための第一歩になると思います。



私自身は20年間、ハンズオンで関わりつつ培っていた心技体を現在は社外役員や顧問として活用しています。

複数の取締役会に出席する中で、今まで磨いてきた心技体が本当に役立っていると感じております。皆さん、今の業務に真剣に誠実に取り組んでください。誇りを持ってモチベーションを高く維持しながら頑張っていただきたい。ここで培った能力や信頼は必ず今後のキャリアに活かされると思います。

私から皆さんへのエールをお送りして、これで説明を終了いたします。ありがとうございました。


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