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増え続ける株主提案。投資家との”良い対話”とは


多くの3月決算企業が6月に株主総会を開きましたが、昨今は持ち合い株が減り、安定株主が減少する中で、トップ選任の賛成率が6〜7割と低い企業も目立つようになっています。

また、株主提案数が増加しているのも、昨今の株主総会の傾向です。三菱UFJ信託銀行(株)の集計によると、2024年6月に行われた株主総会では、90社に対して344件の株主提案がありました。アクティビスト(物言う株主)と呼ばれる機関投資家による株主提案が目立つようになり、それに賛同する個人投資家も増えてきています。もはや、「個人投資家=絶対的安定株主」とは言えない時代になっており、こうした状況の中、企業に求められているのがIRにおける「投資家とのエンゲージメント(≒対話)」です。



目次[非表示]

  1. 1.投資家との対話が求められる背景とは?
  2. 2.企業が投資家との対話に消極的なのはなぜ?
  3. 3.良い対話の3つの条件
    1. 3.1.言いたいことだけを伝えるのではなく、関係構築のための言葉を交わすこと
    2. 3.2.自社を良く見せるためではなく、自社がより良くなるために意見を交換すること
    3. 3.3.一度の対話で完結するものではなく、中長期的に共感を得続けること
  4. 4.まとめ

投資家との対話が求められる背景とは?


企業が投資家との対話が求められるようになったのは、ここ数年の話ではありません。企業と投資家のエンゲージメントに注目が集まるようになった背景にあるのは、資本市場の在り方が大きく変化したことです。

ひと昔前の日本の株式市場は、「安く買い、値上がりしたらすぐに売る」というように、短期的かつ投機的なスタンスの投資が大半を占めていたように思います。そして、実際にこうしたスタンスでパフォーマンスを上げることができていました。これは、財務状況や経営状況などのデータをもとにしたファンダメンタルズ分析によって、比較的簡単に、企業の将来的な価値を予測できていたからです。各産業の変化スピードも今よりは緩やかであったため、「ここ数年は業績が好調だから、今年も大丈夫だろう」というように、過去の数字から推察して投機を行えば、それなりのリターンを得ることができました。

しかし、近年は社会経済情勢が急速に変化し、情報流通のスピードが格段に速くなり、未来を予測することが極めて難しくなっています。「昨年まで急成長を遂げていた会社が、今年は存続すら危うくなっている」といった事例も少なくありません。どれだけ過去のデータを分析しても、その企業が長期的に競争力を発揮し続けられるかどうかはわかりません。

端的に言えば、数字から未来を予測できなくなったため、投資家が企業に「対話」を求めるようになったのです。その企業の体質やカルチャー、経営者の想い、従業員エンゲージメントなど、さまざまな要素から企業理解を深めなければ的確な投資判断はできません。「長期の成長可能性」という見えないものを洞察するための手段が、企業との対話なのです。

こうした時代の変化は、投資家のスタンスにも影響を与えました。昨今の資本市場の傾向として顕著なのは、短期的な「投機」ではなく、中長期的な「投資」のスタンスで企業に向き合う投資家が増えていることです。少し前に、「持ち続ける覚悟で株を買う」という名言を残している投資家のウォーレン・バフェット氏が日本株に投資していることが話題になりましたが、日本の資本市場でも着実に中長期的な視点を持つ投資家が増えています。


企業が投資家との対話に消極的なのはなぜ?


中長期的な視点を持つ投資家を中心に、企業との「対話」を求める声が高まっている一方で、投資家との対話に躊躇している企業が多いのが現状です。もっと言えば、投資家との対話から「逃げている」ように見受けられる企業もあります。

もちろん企業は、投資家の意向・動向に高い関心を持っています。にもかかわらず、投資家との対話に消極的なのはなぜでしょうか? 大きな理由として考えられるのは、「長期的な成長戦略を描けていない」ことでしょう。そして、その要因の一つとも言えるのが、「日本企業は社長の任期が短い」ということです。

日本のCEOの平均在任期間は、米国のCEOの在任期間より短く、4~6年が最多というデータもあります。しかし、たった数年で社長が実現できることには限りがあります。大きな変革を成し遂げるためには、社長がじっくりと腰を据えて長期戦略を推進する必要があります。ですが、大半の企業の中期経営計画は3~5年スパンのものであり、10年先、20年先の未来を見据えたストーリーを明確に描けている企業は多くはありません。


出展:経済産業省「価値創造経営の推進に向けて」


繰り返しになりますが、投資家は企業との対話を求めています。企業との対話から、「この会社はどのような成長戦略を描き、将来、どのように企業価値を高めていくのか」ということを知ろうとしています。一方で、企業側は「長期的な価値創造ストーリー」を描けていないため、投資家の要請に応えることができていません。「自社の良さを知ってほしい」という想いがありながら、投資家が求める情報を提示できていないことは、多くの企業に共通する課題だと言えるでしょう。

企業は今後、短期ではなく、10年、20年という長期視点で「実現したい未来」を描き、IRによって伝え続けなければなりません。そして、その未来を実現するために綿密な戦略を立て、投資家と積極的に対話していくことが重要です。


良い対話の3つの条件


時代の流れを受け、IRにおいて投資家との対話を進めている企業もありますが、必ずしも「良い対話」ができている企業ばかりではありません。金融庁は「投資家と企業の対話ガイドライン」を出していますが、ガイドラインに準拠することで良い対話ができるとは限りません。

当社は、ガイドラインに沿う以前に企業に求められる重要なスタンスを、「良い対話の3つの条件」として整理しました。それらを一つずつ解説していきます。


言いたいことだけを伝えるのではなく、関係構築のための言葉を交わすこと


株主総会や決算説明会において、フレームに沿った資料を提示し、自社からの発信だけに終始する企業が多く見受けられます。株主総会や決算説明会はパブリックな場であり、時間的な制限もあるため、どうしても一方的・形式的な発信になりがちです。しかし、これでは良い対話にはなりません。

良い対話の1つ目の条件は、「言いたいことだけを伝えるのではなく、関係構築のための言葉を交わすこと」です。発信して終わりではなく、「受発信」に努めなければなりません。双方向で、なおかつ血の通ったIRコミュニケーションができなければ、投資家との関係構築は難しいでしょう。

株主総会や決算説明会に制約があるのであれば、IRの部門が主導となり1on1ミーティングやスモールミーティングを開催することをおすすめします。想定外の質問を突きつけられる怖さがあるかもしれませんが、できていないことは「できていない」、わからないことは「わからない」と、ありのままに回答すればよいのです。本音の対話を重ねることが、投資家との関係構築の近道になるはずです。


自社を良く見せるためではなく、自社がより良くなるために意見を交換すること


投資家にマイナスイメージを与えたくないと、自社のネガティブな部分は隠し、ポジティブなところばかりを発信する企業は少なくありません。弱みや欠点を隠したくなるのは人の性ですが、それでは良い対話にはなりません。

良い対話の2つ目の条件は、「自社を良く見せるためではなく、自社がより良くなるために意見を交換すること」です。投資家は、企業に強みをアピールしてほしいわけではなく、正しく現状を把握するための「Issue(課題)」と、今後良くなるための「Solution(解決策)」を示してほしいと思っています。そうであるならば、投資家との対話では、弱みも正直にさらけ出したうえで、自社がより良くなるための建設的な意見交換をしなければなりません。

その際は、投資家から課題解決の助言をもらうのも一つの手です。アクティビストはどうしても「悪役」のイメージがありますが、時に企業の「救世主」にもなる存在です。実際に、一緒に課題に向き合い、解決に向けたポイントを提言してくれる投資家も多く存在します。こうしたアクティビストからの提言に耳を傾け、経営改善に活かしていく姿勢も重要です。


一度の対話で完結するものではなく、中長期的に共感を得続けること


投資家からの要請が高まっていることもあり、「とりあえず一度、対話の場を設けておこう」と考えている企業もあるかもしれません。ですが、1回だけ「場」を設けたところで、良い対話にはなりません。

良い対話の3つ目の条件は、「一度の対話で完結するものではなく、中長期的に共感を得続けること」です。企業が投資家と対話をする大きな目的は、長期的に投資し続けてもらうことです。長期的な関係構築を求めるのであれば、たった一度の対話で投資判断を促すのは虫のいい話です。

投資家はいくつもの企業の動向を追っており、さまざまな観点から比較して、「この会社なら期待できる」と確信を持てた企業に資金を投じます。どんな企業でも、たった一度の対話で投資家に確信を持たせるのは難しいでしょう。中長期的にじっくりと投資家と向き合い、対話を継続することで、共感を積み上げていく姿勢が大切です。


まとめ


未来のことは誰にもわかりません。投資家は「企業の未来の姿」を予測し、期待して投資するわけですが、表出している情報だけで未来を予測するのは困難な時代です。投資家にとっては「正確に未来を予測するため」に、企業にとっては「投資家からの期待を集めるため」に、今、IRにおける対話の重要性が高まっています。

話を日常生活に置き換えてみましょう。特定のアーティストやスポーツチームを応援している人は多いと思いますが、このことは、ある意味、アーティストやスポーツチームに「投資している」のと同じことです。誰でも「上手・下手」という観点だけでアーティストのファンになるわけではありませんし、「強い・弱い」という基準だけで応援するスポーツチームを選ぶわけではありません。

であるからこそ、投資家に選ばれるIRのためには「対話」が必要なのです。投資家との対話で心がけていただきたいのは、現在の「ありのままの姿」を見せ、未来の「目指す姿」を伝えることです。投資家と真摯に向き合い、自社らしさを伝え、夢を語ることによって、応援してくれるファンはさらに増えていくでしょう。




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