海外投資家が求めるIRサイトのポイントとは? -国内投資家との違いから徹底解説-

記事2021年11月30日公開

コーポレートガバナンスコードの改訂に伴い、フェアディスクローズの観点からも日本企業の英文開示に期待が高まっています。

一方で、「海外投資家が求めている情報がわからない」「英文開示はどこから手を付ければいいのかわからない」など、コロナ禍での海外投資家への対応における、企業の悩みも存在しています。

本セミナーでは、当社の10年以上におよぶIR市場の翻訳支援と年間300社以上のWebサイト運用の支援実績を基に、「海外投資家は開示情報のどこを重要視しているのか」、「国内投資家との前提の違いとは」にフォーカスしながら、求められる英文開示について解説致しました。

※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等はセミナー実施当時のものです。
【セミナー実施日】2021年12月8日(水)

【プロフィール】
株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ
営業企画ユニット リーダー 早﨑 亨

2019年、株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズに入社。同社で一貫して営業に従事。「オンリーワンの、IRを。」をメインメッセージとし、企業のオンリーワン性を導き出すことで、IR活動や経営活動の支援を行う。

株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ
ソリューション推進ユニット ロズワドースキー・クリストフ

2017年、株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズに入社。翻訳などを行う言語サービス会社での経験を活かし、統合報告書・コーポレートサイトの海外投資家向け翻訳に従事。
英国翻訳通訳協会会員の資格を持つ。

株式会社a2media
メディアプロデュースユニット 古賀 明美

2017年、株式会社a2mediaに入社。前職での、Webサイトのコンテンツ制作およびサーバー管理・多言語翻訳の経験を活かし、海外投資家とのコミュニケーションに従事。

1.外部環境の変化により必然性が高まる「IRサイトのリニューアル」

リンクコーポレイトコミュニケーションズ 早﨑:まず、「なぜ今海外投資家へのアプローチが必要なのか」ですが、これは「今、相対的に海外投資家の存在感が増している」ということが答えになります。東京証券取引所が発表している下記のデータによると、日本国内の海外投資家による株式保有比率は、2020年度時点で30%を超えています。1970年には約5%であったことから見ても、上記の背景になるかと思われます。


(出典:2021年7月7日 東証「2020年度株式分布状況調査の調査結果について」
https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/nlsgeu000005nt0v-att/j-bunpu2020.pdf)


売買の動向に関しても、海外投資家の金額比率が年々増加しています。コーポレートガバナンスコードの改訂も海外投資家からの要請が大きく影響していることから、英文開示の必要性は、企業としても無視できない状況になってきているでしょう。

そして今、投資家と企業のコミュニケーションにも変化が起きています。具体的には、コロナ禍により海外投資家との面談のアポイント取得の難易度が高まっている、という点です。それに伴い、企業は面談以外の手段で情報開示・コミュニケーションを取ることを余儀なくされています。その結果、IRサイトをはじめとするWebサイトの重要性が増してきているのです。

最後にもう一つ、「ESG・サステナビリティ」開示の要求が高まっていることが挙げられます。以前から「CSR」という文脈で開示をしている企業はありましたが、今ではGRIスタンダードなど、ESGに関するフレームワークが多く出回っているため、まずはそれに則ってIRサイトを構築していくことが、投資家に選ばれるための必須要件となっています。

IRサイトの役割は、「リアルタイム性」「パブリック性」「検索性」の3つと言われており、鮮度が良い情報を、公平に、効率的に知ることができるのが特徴であり、海外投資家が求めていることと言えます。

2.海外投資家とのコミュニケーションのカギは、「伝える」ではなく「伝わる」

a2media 古賀:下記のデータは、2021年8月30日に東京証券取引所が海外投資家向けに行ったアンケートです。海外投資家から見た日本の上場企業の英文開示に対する評価がまとめられています。このデータによると、約6割の海外投資家が不満を持っている、ということがわかります。


(出典:2021年8月30日 東証「英文開示に関する海外投資家アンケート調査結果の公表について」資料から引用 https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0060/20210830-01.html)

早﨑:それでは、なぜ海外投資家は満足していないのでしょうか。結論から先にお伝えすると、「コミュニケーションの構造」が原因なのです。コミュニケーションは、受信者(海外投資家)と発信者(日本企業)に分けられます。現状では、「発信者(日本企業)が伝えたい事、伝えられることのみを英訳し、それを受信者(海外投資家)が読み解く」という構造になっています。

それによって問題が大きく2つ発生しています。
①日本語版サイトよりも要素が少なくなってしまっている
②日本語版サイトをそのまま英訳してしまっている

①に関しては、言葉の通り、海外投資家が知りたい情報も削ってしまっている、ということが起きています。
②に関しては、日本人向けに書かれた文章構造のため、海外投資家からすると理解しにくい、という状況が起こっています。フェアディスクローズの観点では日本語のまま英訳した方が良いのではないか、というご質問もよくいただきますが、フェアは「日本語と同じ」という意味ではなく、「英語にしても日本語と同じぐらい伝わる」という意味ですので、そのような英文開示を心がけなければいけません。

上記2点の問題をベースとして、日本企業の海外投資家への情報開示は「有益な情報提供ではなく、自社都合の発信」となってしまっているのが現状です。

では、望ましいコミュニケーションの構造とは何か。これは、「受信者側の海外投資家が知りたい事に答える」ということです。日本語を英訳すれば十分というわけではなく、前提の異なる人との異文化コミュニケーションである、と捉えて対応することが必須なのです。

まとめると、コミュニケーションメディアであるIRサイトとは、企業の異文化コミュニケーションの最前線、顔となるメディアである、と捉えることが非常に大切です。加えると、海外投資家の「知りたい」に答えることができれば、それだけで海外投資家からの評価を大きく向上させられると考えることもできます。

3.海外投資家にアプローチするためには、「言語」と「前提」の違いを知ることが大切

早﨑:それでは次に、海外投資家が何を知りたがっているのか、などについて皆様へお伝えいたします。

古賀:海外投資家からよく聞かれるのが、「日本市場の特徴がわからない」「英語が通じない」という不満の声です。具体的には、「決算説明会資料が英語になっていない」や「日本の投資家に有利な情報しかない」など、聞きたい事があっても聞くチャンスや情報を得るチャンスがないという課題感を持たれています。

早﨑:このような問題は、下記の2つの違いによって起こります。
①「言語」の違い
②「前提」の違い
まず「言語」について、具体的には「どんな翻訳をすればよいのか」という点を、当社で統合報告書やIRサイトの翻訳を担っているロズワドースキーからお話しさせていただきます。

リンクコーポレイトコミュニケーションズ ロズワドースキー:しばしば「良い翻訳とはなんですか?」という質問をいただきますが、はっきり言って正解はありません。そのため、「目的に応じた翻訳を行う」というのが答えになります。ここでいう目的とは、顧客の特徴に合わせて行動や感化を促すコミュニケーションを行うことです。それを実現するために当社が考える「Communicative Translation (コミュニカティブトランスレーション)」という考え方を紹介します。

Communicative Translationとは、以下の2つを満たす翻訳のことです。
①米国証券取引委員会が推奨する「シンプルで比較しやすい」翻訳
②英語が母国語の方だけではなく、第2言語が英語の方にもわかりやすい「ロジカルで名詞中心」の翻訳

①に関して、同じような言い回しを避けること、そして他社と比較しやすい数字や言葉を使うことが大切です。
②に関して、動詞中心の日本語は文章が長くなりがちなため、名詞中心で端的に伝えることが大切です。
下記の図のように、「言語」の違いを認識したうえでちょっとした工夫を行うだけで、海外投資家にとってわかりやすい翻訳にすることが可能です。


早﨑:ありがとうございます。学校で習うような文章ではなく、できるだけシンプルに、ということが「言語」の違いを乗り越える秘訣かと思います。

続いては2つ目の「前提」の違いに関して、古賀からお話しいたします。

古賀:「前提」の違いに関しては、以下の2点を押さえることが大切です。
①情報収集方法の違い
②市場・事情・文化の違い

①に関して、海外投資家は多忙なため速報から見ていく、という効率性の高い情報収集を行っています。
ですので、何よりもまず「決算短信」を見に行きます。そこから興味を持ったら「決算説明会資料」そして「統合報告書」と遷移していきます。統合報告書に力を入れてもまずそこまで辿り着かない、ということが往々にして起きているということです。なので、まずは決算短信の英訳に注力するのが効果的です。

海外の一般的な決算短信のポイントは、MD&A(MD&A:経営者による財務・経営成績の分析)が充実しており、簡潔で具体的であるという点です。海外の決算短信では、MD&Aが箇条書きで記載されていることが多いです。そのため、投資家としては「自分が気になる指標のみ見て判断する」という効率の良い情報収集が可能になっています。

そして、MD&Aの後にはその中でも重要な指標や環境について手厚く述べる、という構造になっているため、非常にシンプルかつわかりやすい開示内容になっております。

②に関して、しばしば海外投資家から「日本市場は閉鎖的」「日本市場はよくわからない」というコメントをいただきますが、それは全て「日本の市場・事情・文化がわからない」ということに集約できます。

1つ目の市場に関して、トピックでは東京証券取引所市場再編がありますが、海外投資家からするとマイナーチェンジに過ぎないという評価です。日本にとって大きな変化でも、海外にとっては大したことない、ということは往々にして起こります。ただ逆に捉えると、この機会に英文開示を適切に行うことができれば、日本市場の中で抜きん出るチャンスにもなり得ると考えられます。

2つ目の事情に関して、例えば少子高齢化や男女格差などは、日本で突出したファクターになります。また、税制であったり、政策と直結した産業も海外に比べてとても多いです。そのような前提がないと、例えば介護ビジネスのどこに強みがあるのか全くわからない、投資をする意味がわからない、ということにもなりかねません。

3つ目の文化に関して、海外投資家からするとわからない日本独自の文化的背景も多く存在します。例えば、日本の商慣行の例で一番よくわからないと言われているのが百貨店です。世界中に大型量販店はありますが、日本の百貨店のような文化的・社会的位置づけのものは少ないです。

4.IRサイト改善の鍵は、診断・変革・改善の3ステップ

早﨑:古賀さんありがとうございます。では今までのお話を踏まえて、今後どのようにIRサイトを改善していけば良いのか、というお話しをいたします。

方法は以下2つです。
①海外投資家をターゲットとしてコミュニケーション設計をする
②診断・変革・改善の3ステップで既存のサイトをブラッシュアップする

①に関して、IRサイトの現状は基本的に、日本人の個人投資家や機関投資家に向けたサイトの英訳、というのが主流ですが、そのターゲットをそもそも海外投資家に変える、というものです。これが一番本質的な手段ではありますが、内部のリソースや対応能力にも左右されるので、やりたくてもできない企業様も多いかと思います。

そのような企業様は②を行うと良いです。海外投資家の眼鏡で「ウェブサイト診断」をし、クリティカルな問題を明らかにし、改修改善を行っていくという方法です。例えばWebであれば、Googleアナリティクス等で、どの情報が見られているのか、見られていないのか、が一目瞭然でわかるため、それを基に改善を行うことができます。既存のコンテンツの改善という点からも、②の方が実現可能性は高いのではないかと考えています。

まとめとして改めて当社がお伝えしたいことは、「IRサイトは、企業の異文化コミュニケーションの最前線となるメディアである」ということです。なので、日本語のまま英訳するのではなく、そもそもの前提が違う海外投資家とのコミュニケーションを通じて、自社のことを知っていただく。そのようなメディアとして上手くご活用いただければと思います。

メディア掲載月刊総務 2021年6月号

「月刊総務 2021年6月号」の「総務のNews」コーナーにてIRダイアログが紹介されました

2021年5月8日掲載