【後編】東証再編により求められるIR戦術を徹底解説!-“合理”と“情理”のIRとは?-

記事2021年12月23日公開

外部環境が急速に変化する中、環境変化に対応するように2022年4月、東京証券取引所の市場区分再編が行われます。その中で今企業から注目されているのが、会社の目指す姿に共感してもらい、期待してもらえる「ファンづくりのIR」の必要性です。

今回のセミナーでは、日頃大手企業のIR戦略をサポートしている株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズから、IR担当の皆さまに向けて、「ファンづくりのIR」を実践するためのポイントについて解説いたします。

前編(https://www.link-cc.co.jp/articles/ir_tactics-01.html)では、市場区分の再編に伴い、投資家の市場に対する視点がどう変わるのか、そして企業に求められるIR活動や発信すべきメッセージについてお伝えしました。
後編では、より具体的にファンづくりのIR戦術についてお伝えいたします。
※本記事中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等はイベント実施当時のものです。

【プロフィール】
株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ
代表取締役社長 白藤 大仁

2006年株式会社リンクアンドモチベーション入社。同社の採用支援部門の事業部長を務め、業務効率向上コンサルティング等に従事。2015年には新規グループ会社を設立。企画室室長としてマーケティングやセールスプロセス構築のコンサルティングに従事した経験を持つ。多くの経営者及び経営ボードとの実務を経て、2019年に株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズの代表取締役社長に就任。「オンリーワンの、IRを。」をメインメッセージとし、企業のオンリーワン性を導き出すことで、IR活動や経営活動を支援する事業を行う。

株式会社a2media
取締役 小澤 一道

NTT系列のハウスエージェンシーにて15年にわたりPR・SP系のマーケティング・企画・制作に従事。2003年に株式会社a2mediaに入社。本国内のIR黎明期から、上場企業のべ数百社のIR活動をコミュニケーションの側面から支援。2017年に株式会社a2mediaがリンクアンドモチベーショングループにグループイン。カンパニー長として、引き続きIR領域における顧客支援に取り組む。

株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ
マネジャー 一瀬 龍太朗

2010年、株式会社リンクアンドモチベーションに新卒で入社。主に財務会計・管理会計といった側面から経営企画業務に従事し、中期経営計画、IR、M&Aといったテーマに取り組み、全社MVPを受賞。その後同社IR・PR部門を統括。
社内を巻き込む「全社一丸IR」を推進し、2年で株価10倍を経験。2019年1月より現職。

株式会社a2media
メディアプロデュースユニット ユニットマネジャー 清水 崇秀

2005年に株式会社a2mediaに入社後、一貫してIRディレクターとして数多くの上場企業のコミュニケーション支援を手がける。現在はユニットマネジャーとして組織運営に携わるとともに、個人投資家向けIRの在り方に対する思索を深め、顧客企業に寄り添ったサービスを提供。
〝IRにIRODORIを。〟の実現を推進中。

株式会社リンクイベントプロデュース
広江 朋紀

HR領域のエキスパートとして、採用、育成、キャリア支援、風土改革に約20年従事。
講師・ファシリテーターとして、上場企業を中心に1万5千時間を超える研修やワークショップの登壇実績。
株式会社リンクアンドモチベーション社の講師育成総責任者の経験も持つ。

リンクコーポレイトコミュニケーションズ 一瀬:ここまで東証再編により求められるIR活動や発信すべきメッセージについて、セミナーを進めてまいりましたが、ここからさらにテーマを深堀りして、具体的な戦術や手法について議論していければと思います。

まず自己紹介させていただきます。私は入社後、当初の配属はコーポレート部門で、主に経理や財務や管理会計など、会社の数字回りの部門からキャリアをスタートしました。その流れでIRセクションを立ち上げ、いろいろと幸運なこともあり株価が順調に上昇しまして、2年で10倍以上時価総額が上がるという大変貴重な経験をしました。

IR担当時代には、社員にもIRの重要性を伝えるということで、「全社一丸IR」というプロジェクトを実施していました。その後、IR担当からIR支援者へ立ち位置を変え、株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズでさまざまな企業のご支援をさせていただいています。

今回は、IR担当及びIR支援者の両方の経験をもとにお話したいと思います。

a2media 清水:株式会社a2mediaの清水と申します。2005年から株式会社a2mediaに入社し、一貫してIRコミュニケーションの支援をしています。一瀬さんとも情報交換等をしながら、さまざまなIRのノウハウや経験を積み重ねてまいりました。 

15年という長い期間IRに携わっていると、IR自体がこの間に非常に大きく変化してきたことを肌で感じます。さらにこの2年間で変化はとても激しいですし、これから先も変わっていくと感じています。

今回は、長年IRに携わってきた経験をもとに、具体例も交えてお話させていただきます。

企業価値向上に必要なのは、“ファン投資家”

一瀬:まずは会社とステークホルダーの関係性についてお話していきたいと思います。企業経営においてはさまざまなステークホルダーが存在し、そして価値交換の活動がなされています。

下の図で示しているのは、その中でも大きい影響力がある3つの市場の商品市場、労働市場、資本市場における、それぞれのステークホルダーとの関係性です。商品市場であればお客様との関係においてサービス提供の代わりに対価を受け取り、労働市場であれば、社員や従業員、採用応募者などに報酬を支払う代わりに労働を提供してもらう。そして、資本市場は皆さんご存知の通り、資金提供をしていただいて、配当でお返しします。


私たちは、各市場のステークホルダーの中で通常よりもより強く結びついているステークホルダーがいると考えています。この、強く結びついているステークホルダーのことを、資本市場において私たちは“ファン投資家”と呼んでいます。このファン投資家をどれだけつくることができるのかが企業価値向上に繋がると考えています。

一般的な投資家ですと、事業内容や企業戦略の理解に留まるレベルの関わりとなります。それゆえ、業績が厳しい局面になれば、株を手放してしまいます。一方で、ファンと呼ぶことができる投資家や企業と強く結びついた投資家は事業内容や企業戦略に留まらず、その企業の思想や目指すビジョンも深く理解してくれるような関わりをします。そのため、企業への共感性が非常に高く、業績が良いときだけではなく、悪いときも支えてくれるのです。そして、それだけでなく厳しい局面でしっかりと企業に対してフィードバックをしてくれる特別な存在だと思っています。

私はこのように考えているのですが、清水さんから見ると、ファン投資家という存在は企業にとってどんな価値があると思いますか。

清水:ファン投資家という存在の一番のポイントは、企業への共感性だと思っています。やはり企業は成長するタイミングもあれば、そうでないタイミングもあり、紆余曲折があります。しかし、その中でも目指す方向性に対してきちんと支援をしてくれる投資家が、企業にとっては非常に大切な存在だと言えますし、そのような投資家を増やしていくことが企業の更なる成長を実現していくと考えています。

一瀬: 実はこの”ファン投資家”という言葉ですが、もっとしっくりくる言葉がないかと考えていました。そこで思い当たったのが、「一蓮托生の同志」という存在なのではないかと、清水さんと話したんですよね。

清水:以前、ある投資家の方と対話をした中で非常に印象的だったのが、「本当に見ているポイントは経営の本気。すなわち覚悟があるのかどうか」とおっしゃっていたことです。”ファン投資家”という言葉は一見少し柔らかく感じるかもしれませんが、その実態はそれだけではないと思いました。多額のお金を投資するに値するのかということを考えると、もっと真剣に考えねばなりませんので「一蓮托生の同志」という言葉がしっくりくると考えています。

一瀬:IRにおいて、「エンゲージメント」という言葉は、「建設的な対話」と訳されることが一般的です。しかし、エンゲージメントという言葉の語源を紐解くと、エンゲージメントリングという言葉もあるくらいですから、そもそもは結婚といったような強い結びつきを表現するものなんですね。やはり、「建設的な対話」という和訳と、本来エンゲージメントという言葉が持つ強さや意思の固さは、ニュアンスからしてもギャップがあると感じています。本来の意味に近い「エンゲージメント(共感の強さ)」を実現していくような、そういうIRの実践がファン投資家の獲得に繋がるのではないかと私たちは考えています。

共感度合いの違いで投資家を視る
―出会う、知り合う、共に成長する―

一瀬:では、この「一蓮托生の同志」を獲得するためのIRコミュニケーションのポイントについて、「だれに・なにを・どのように」という観点で考えていきたいと思います。まず、「だれに」ですが、キーワードは「エンゲージメントレベル(共感度合い)」です。

アプローチする投資家を、皆さまはどのようにターゲティングされているでしょうか。一般的には、属性による分類が多いかと思います。大きく分類すると、機関投資家と個人投資家という分かれ方をしますし、機関投資家の中でも、国内機関投資家と海外機関投資家ですとか、その中でも投資方針の違いや、バイサイド、セルサイドなど、そういった分類の仕方がありますよね。個人投資家の中にも、短期・長期それぞれで売買をされる方など、さまざまかと思います。

こういった属性で考えていくというのが一般的な考え方になるかと思いますが、私たちが考える「だれに」のポイントは、分類軸の中に「エンゲージメントレベル」という軸を持つということです。

清水:「エンゲージメントレベル」と聞いてもイメージがわかないと思いますので、図にまとめてみました。先ほど一瀬さんにエンゲージメントを結婚をモチーフに解説してもらいましたので、それをベースに、エンゲージメントレベルを分類しています。


まず、「出会う」。次に、「知り合う」。そして、「共に成長する」。大きく分けると3つのエンゲージメントレベルがあると考えました。「出会う」は、言い換えると認知です。具体的に言うと、会社概要やビジネスモデルが挙げられます。人との出会いで例えると、「どういう人なのか」「どのような仕事をしているのか」というようなテーマです。

次に、「知り合う」です。言い換えると理解と納得の醸成です。具体的に言うと、自社をより深く知ってもらうための経営戦略や、独自性という観点での競争優位性、さらにはそれが持続するのかという観点でのサステナビリティやガバナンスがこれにあたります。これも人との出会いで例えると、相手をより深く知るために、「将来的に考えていることは何か」「他の人と何が違うのか」というような、より深い接点を持つ段階に入っていくと考えられます。

最後に、「共に成長する」です。言い換えると共創関係の構築です。互いに一緒になって、発展していく関係性となります。具体的に言うと、理念やビジョン、それを実現するための企業文化が該当すると考えています。これも人との出会いで例えると、「これを実現するためにどうしていくのか」「一緒にやっていくのであればこの人と合うのかどうか」といったことです。そして、「この人は信頼できるのか」「何かリスクとなることはないか」という点も気になるポイントです。したがって、相手の表情なども非常に重要なキーになってきます。

このようにエンゲージメントという軸で投資家を見たときに、どのターゲット層が自社にとって一番重要なのかを決めることが非常に肝心だと考えています。「共に成長する」ということには、当然投資家から選ばれることも含まれていますが、逆に自分たちも選んでいくということも含まれているのだと思います。

一瀬:マーケティングの観点に近いですね。どういうエンゲージメントレベルにあるかを意識するだけで、アプローチの意図や目的がクリアになってくるかもしれません。

合理と情理で伝え続ける、経営の意思

一瀬:では次に、エンゲージメントレベルをどう高めていけば良いかについてここから解説します。「だれに」「なにを」「どのように」の、「なにを」です。一言で言うと、合理軸に加えて情理軸、要するにエモーショナルな部分にも触れていくことが非常に重要だと考えています。

清水:今のIRの世界では、どちらかというと合理軸での説明が大半を占めていると思っています。一方、情理軸に関しては過小評価されていないかというのが私たちの課題感です。これは非常にもったいないと思います。経営とはサイエンスでありアートである、とよく言われるにも関わらず、IRの世界だとサイエンスばかりを主張していて、アートの部分にあまりスポットが当たっていません。

企業にとって実現したい世界は、サイエンスの世界ではなくむしろアートの世界にあることが大半です。例えば、「こういう世界を創りたい」「このような商品を創りたい」「これで人を幸せにしたい」などということです。しかしもちろん、この情理軸だけを伝えるだけでは十分ではありません。

つまり、合理軸と情理軸をバランス良く伝えていくことが非常に重要です。例えば、経営戦略を語るときも、どんな世界を実現するビジョンを持っているのかを説明した上で、経営戦略を具体的に伝える必要があります。逆に、事業計画やマーケティングでどのような戦い方をしていくのかを伝えた後に、経営意思、つまり「我々はこういう覚悟を持っています」ということも併せて伝えることが重要なのです。

例えば、沿革を伝える場面では、これまでの歴史だけでなく、その結果紡いできたDNAや蓄積してきた資産を伝えるべきですし、人材育成について伝える場面では、単なる人材育成の手法だけでなく、その背景にある「大切にしている企業文化」なども併せて伝えることが重要です。

合理軸だけだと数字とロジックで分かりやすいのですが、表層的な企業の一面しか伝えることはできません。より深層レベルで企業価値を立体的に伝えるためには合理軸と情理軸を併せてコミュニケーションしていくことが非常に重要であると考えています。


一瀬:この情理軸は、非常に個社性が高いですよね。他社の説明を自社でそっくりそのまま模倣することはできません。だからこそ、しっかりと企業ごとに考え抜いて伝えていくことが、情理を伝えていく上では非常に重要です。この情理軸を持ったメッセージで投資家からの共感を得ることができれば、深い関係性を築くことができると考えています。

ご存知の通り、IRの開示では、法定・適時開示に加えて、任意開示の領域があります。この合理と情理をしっかりと伝えていくことを考えると、やはり法定・適時開示だけではなかなか伝わらないものがあると思います。

ですので、この任意開示の部分にも注力することが重要だと考えています。フィギュアスケートでいえば、法定開示が規定演技だとするならば、任意開示は自由演技です。この自由演技でその企業ごとの想い、あるいは独自性を伝えていくことが効果的なのではないでしょうか。

また、このように企業が自由演技の領域を拡大していくことの意義にも触れたいと思います。多くの企業が自社の成し遂げたい未来を自由に語るようになると、この資本市場全体が投機ではなく投資が増えてくると私たちは考えています。要するに、マネーゲームではなく未来を信じてその経済に投資をするという市場に変化するのではないかということです。

IR活動をする中では、短期目線の投資家にお会いすることも多くあります。未来のまだ目に見えない領域に期待が集まらないという課題感をお持ちの方も多くいらっしゃるかと思います。これは、投資家の目線という課題もあるかもしれません。

しかし、視点を変えると、上場企業が自社の未来を伝えていないから投資、つまり期待が増えていないのではないかということも考えられます。このように、発行体側の在り方も考えていくことが非常に重要だと思いますし、投機ではなく投資を増やし市場を創っていくことを、しっかりとリーダーシップを持って行うことが上場企業の責務ではないかと思います。そうすれば、この国の経済に期待を持つ人が溢れていく、そんな国になるのではないかと思うのです。そして、ぜひそういう経済を創っていきたいと思っています。

さて最後に、「だれに」「なにを」「どのように」の、「どのように」です。

「どのように」を考えるためのキーワードは、時間軸と空間軸です。これまで、投資家に共感されるという目的を果たすために情理と合理をエンゲージメントレベルに合わせて伝えていきましょう、とお伝えしてきました。ここで気をつけなければいけないのは、一度言っただけでは伝わらない、ということです。一度きりの発信では、時間の経過とともに熱量が冷めていき、忘れられていきます。伝えることも重要ですが、それと同じくらい一貫して伝え続けることが重要です。

また、その伝え方も工夫することも大切です。常に一通りの伝え方ではなく、コミュニケーションのメディアを変えて伝えていくことも非常に重要です。

清水:先ほどお伝えした合理軸、情理軸という点では、合理軸に向いているメディアもあれば、情理軸に向いているメディアもあります。メディアによってさまざまな特性があるということです。そこを踏まえて、合理軸を強めにするメディアとして発信したり、情理軸を強めで発信したり、メディアをしっかり選んだ上で、一貫して自分たちが実現したい世界を伝える。その上で、投資家にしっかりと認識してもらい、目的に合意してもらう、同志になってもらう、ということが重要であると思っています。

一瀬:仰るとおりですね。同志を増やし、ミッションやビジョンの実現にまっすぐ向き合える企業がもっと増えていくと私個人としても嬉しいですね。ありがとうございます。それではここからは参加者の皆さまからの質問にお答えしていきたいと思います。

■海外IRは、言葉だけでなく想いを伝える翻訳を

参加者:市場再編によって、海外投資家向けIRはどう変わるべきか、どのように考えていますか。

一瀬:市場再編によって、というよりは、世界的にどういう動きの中で海外の機関投資家と対話していくかを考えるべきだと思っています。

現在、カーボンニュートラルをはじめとして、世界全体がサステナビリティ経営にシフトしています。サステナビリティ経営を前提にしたときに、企業はどのような経営をすべきなのか、長期戦略をどのように描くのか、どう変化すべきか、ここについてしっかりと経営者の考えを投資家に伝えていくことが非常に重要になると思います。

つまり、法定開示だけでなく、任意開示について、和文だけでなくしっかりと英文でも開示することが重要です。また、たとえ英訳されていたとしても、言葉しか翻訳されていないということでは不十分です。経営の意図やその熱量、想いが伝わる翻訳が、今後の海外IRでは非常に重要になると考えています。

■経営とIR部門の対話を起点に、未来のストーリーを描く

参加者:経営企画部門が自社になく、明確な成長戦略の目的が見えません。IRとしてはどのように進めるべきでしょうか。

リンクコーポレイトコミュニケーションズ 白藤:同じテーマで悩む企業は非常に多いと思います。未来のストーリーを描けている企業は、そこまで多くはないでしょう。

ただ、上場企業となると、社会の公器としてのメッセージが必要になってきます。非常に難しい問題ですが、やはりIR部門という存在自体が会社のメッセージをど真ん中で伝える存在だということを経営者が正しく理解する必要があります。私は、このIRに携わる皆さまのお仕事は、本当に尊い仕事だと思います。経営者も間違いなくご理解いただけると考えています。

今の市場の動きを見ると、例えば、人権デューデリジェンスという言葉が当たり前のように叫ばれていますけれども、人間というのは良いものを安く買いたいと思うものです。しかし、その良いものが安く手に入るけれども、もし地球の裏側で幼児労働や世界的にネガティブなことが起こっているかもしれないとなれば、話は別になります。そのような企業が世の中で、つまりは市場で影響を持ってしまうことは望ましくありません。自分たちの次の世代にとって豊かなものが失われていくわけですから、そこに対して経営者は正しく理解をする必要があるということです。

部署や担当している職務などご自身のカバー範囲が決まっているとは思います。そういう方々とちゃんとつなぐ場を、しっかりと設計をして、どんなことを大事にしているのかを語る場が必要であると考えます。

今、多くの企業が取り組んでいるのは、あるアウトプットをベースに議論をすることです。例えば、統合報告書を制作する企業は、この10年間で25倍超にもなっています。単に制作することだけが重要なのではなく、制作プロセスにおいて、対話の場を設計していくことが重要であり、この対話の機会自体が非常に大きな財産であると考えています。

非常に難しい状況ですが、まずはアウトプットをベースに経営の皆さまとの対話の場を設計していくことが優先すべきことではないでしょうか。

最初はおそらく、なかなかすり合っていかないとも思います。そして実際には、その場が設計されたとしても、部門の間でなかなか繋がっていかないというお話も聞きます。しかし、そういう状況ですと、投資家や、消費者、さらには労働市場から選ばれなくなってしまうと思いますので、やはり経営者はそこに向き合わざるを得なくなってきます。私どものような第三者を使ったり、自発的に設計をされたり、ぜひ、そういった場をしっかりと編み上げていただければ、間違いなくメッセージが研ぎ澄まされていき、そのメッセージを実現するためのストーリーが紡がれていくのだと思います。

■業績低迷のときこそ、想いを伝える積極的IR

参加者:業績が低迷している中で、積極的なIRを行うことにジレンマを感じています。

清水:前半(※)で白藤さんが言及した通り、「的」、つまり企業としての目的に立ちかえることが重要だと思います。短期的に業績が低迷していることは投資家からも厳しい質問や追及が集まりますが、重要なことは10年先、20年先を見据え、自社が実現したい未来や、それに向かってどのような計画を描くかということがすごく重要だと思います。

さらにそれを熱く語るということも重要だと考えています。経営者としてどれくらい本気でその未来を実現したいのかを、何回も繰り返し伝えるということです。私も今日、何度も言っているとは思うのですけれども(笑)。本当にここが一番重要ではないかと思っています。

業績が低迷している理由やその原因を分析し、それを伝えることも非常に重要です。しかし、それ以外の部分にも目を向けてもらえるように説明することが一番重要であると思います。

※前編:https://www.link-cc.co.jp/articles/ir_tactics-01.html

広江:最後に、まとめのメッセージをそれぞれいただけますか。

a2media 小澤:私がIRに関わって20年近くになりますが、当初は株主通信が決算短信を少しアレンジしたような内容の白黒印刷という風な、そんなIRの初期から市場を見てきました。その段階が、いわゆる法定開示からIRへと変化をはじめた1つのターニングポイントだと思っています。

そして今、まさに新たなターニングポイントだと考えています。いわゆるレギュレーションや、やるべきことに従うのではなく、企業が自発的に誰に何を届けていきたいかを考えてメッセージを送る時代になり、新しいIRがはじまると思います。この機会をぜひチャンスと捉え、いろいろな投資家の方々、いろいろな共感者をつくるというアクションをぜひ起こしていただきたいと思いますし、私たちも全力でそのお手伝いができればと考えています。

白藤:私は本気で、IRというお仕事は経営ど真ん中の非常に尊いお仕事だと思っています。やはりこの経済自体は私たちの次の世代、また、そのまた次の世代に受け継いでいく、非常に重要なセクションだと思いますし、その観点でお仕事をしていく必要があると感じています。

一瀬:私がお伝えしたいことは、株主、投資家は敵じゃないということです。一緒に価値を生み出していく同志なんだということですね。ですので、IRはその同志づくり、仲間づくりだと思って、ぜひ本気のデートを重ねていきましょうというのが私からのメッセージです。

清水:会社という言葉が分かりにくくしているかもしれませんが、その中身は人間の組織だと思っています。人間が集まる組織である限りは、やはり合理と情理の部分が非常に重要だと思っていますし、その会社が価値を提供していくのであれば、アートやセンスの部分は否定できないと考えています。その部分はIRにおいて今までなかなか表現しきれなかったことが、もったいないと思っているので、そのアートやセンスの部分をきちんと信じて、伝えていくことが重要だと思っています。

社長さまにインタビューをする機会がありますが、その場に滲み出る社長の人間味や言葉は本当に面白いんですよね。ただ、それを実際に文章にすると、平易な言葉になってしまうこともあります。これは非常にもったいないことです。勇気を持って、その情理の領域で情報発信していくことが、同志が集まる鍵になるのではないかと思っています。

メディア掲載月刊総務 2021年6月号

「月刊総務 2021年6月号」の「総務のNews」コーナーにてIRダイアログが紹介されました

2021年5月8日掲載